弁護士の生成AI活用ガイド ─ 使ってよいか、守秘義務、選び方
要点(2026年10月25日時点):弁護士法と弁護士職務基本規程に、生成AIの利用そのものを禁じる条文は見当たりません(当社調べ)。問われるのは、どの情報を、どのサービスに入れ、出力をどう確かめるかです。拠り所は、守秘義務(弁護士法第23条、職務基本規程第23条)、弁護士情報セキュリティ規程、個人情報保護法と、東京弁護士会のガイドライン、日弁連AI戦略ワーキンググループの注意事項です。
弁護士は生成AIを使ってよいか
弁護士法と弁護士職務基本規程には、生成AIの利用そのものを禁じる条文は見当たりません。弁護士会は、使い方の留意点を示す形で指針を出しています。
- 東京弁護士会は「弁護士業務における生成AIサービスの適正利用ガイドライン」を定め、会報 LIBRA 2026年7・8月号の特集でその内容を紹介しています。
- 日本弁護士連合会の AI 戦略ワーキンググループは、2025年9月に「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項」を取りまとめ、2026年2月に更新版を公表しています。会員専用の資料です。同特集によれば、日弁連の公式見解を示すものではなく、綱紀・懲戒の直接の基準でもないとされています。
どちらも、使うかどうかではなく、どう使うかを扱っています。中心になるのは次の三つです。
- 守秘義務と個人情報:入力した情報が、どこで処理され、何に使われ、どこに残るか。
- 出力の正確さ:存在しない判例や誤った条文が混じっていないか。
- 責任の所在:法的な評価と、提出・送付の判断を弁護士が行っているか。
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)との関係では、法務省が2026年8月21日に公表したガイドラインが、弁護士・弁護士法人がサービスの提供を受け、出力を自ら精査・修正して使う形(同ガイドラインの「弁護士利用モデル」)は、直ちに同条に抵触するものではないと整理しています。詳しくはAIと弁護士法第72条で解説しています。
役立つ場面と、任せてはいけないこと
| 業務 | 生成AIの使い方の例 | 弁護士が必ず行うこと |
|---|---|---|
| 書面・資料を読む | 相手方書面の要約、前回の書面からの変更点、証拠の時系列化 | 原文と照合し、要約から落ちた主張がないかを確かめる |
| 書面の下書き | 準備書面・訴状・通知書の構成案と下書き(手順) | 主張の採否、事実と証拠の対応、条文・判例の確認 |
| 契約書 | 条項ごとの不利な点の指摘、修正案、相手方の修正との比較 | リスクの評価、最終的な文言、依頼者への説明 |
| 調べもの | 論点の洗い出し、調べる順序の整理 | 判例・条文を一次資料(e-Gov 法令検索、裁判所の裁判例検索など)で確かめる |
| 事務 | 裁判所の書面からの期日の読み取り、依頼者への連絡文の下書き、打合せの要約 | 期日の確認、送る文面の確認と送信 |
任せてはいけないのは、法的評価の確定と、依頼者・相手方・裁判所に対する外部への行為です。生成AIの出力は下書きとして扱い、提出・送付の判断は弁護士が行います。
守秘義務と個人情報 ─ 入力してよい情報の考え方
弁護士法第23条は、弁護士が職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。弁護士職務基本規程第23条は正当な理由なく依頼者の秘密を漏らし又は利用することを禁じ、第19条は事務職員等に秘密を漏らさせないよう指導・監督することを求めています。
個人情報保護委員会は、2023年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者が本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを生成AIサービスに入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には、個人情報保護法に違反する可能性があると指摘しています。そのうえで、事業者が個人データを機械学習に使わないこと等を十分に確認するよう求めています。
入力の前に確かめること
- 入力した情報が、サービスの学習や品質改善に使われないか(規約で除外されているか、設定で止められるか)
- サービスの事業者が、正当な理由なく入出力を見られないか
- 入出力がどこに、どれだけの期間残るか。利用者が削除できるか
- 処理される国・地域。外国の法令による開示の可能性
- 個人向けのプランか、データ処理契約が適用される法人向けのプランか
確かめられない場合は、氏名・住所・事件番号などを伏せる(匿名化・抽象化)か、入力しないことを検討します。LIBRA の特集によれば、東京弁護士会のガイドラインは、秘匿性の高い情報を入力する場合に、利用についての依頼者への説明、必要に応じた同意の取得、委任契約書への明記などの対応を求めています。説明の要否と方法は、委任契約と守秘義務に照らして各事務所で判断します。
生成AIサービスを選ぶ 8 つの確認点
| 確認点 | 見るところ | 理由 |
|---|---|---|
| 1. 学習への利用 | 規約、データ処理契約、設定 | 学習に使われると、別の利用者への出力に現れるおそれがある |
| 2. 事業者による閲覧 | 規約、セキュリティの説明資料 | 守秘義務の外にいる人が入出力に触れうるか |
| 3. 保存と削除 | 保存期間、削除の方法 | 事件の終了後も残り続けないか |
| 4. 処理される場所 | 保管と推論の国・リージョン | 外国の法令の適用、依頼者への説明 |
| 5. 契約の形 | 個人向けか法人向けか、データ処理契約の有無 | 同じサービスでも、プランで扱いが変わる |
| 6. 権限と情報遮断 | 事件ごとの閲覧の制限 | 利益相反のある事件の間で、AI を介して情報が混ざらないか |
| 7. 記録 | 操作ログ・生成の履歴の保存と書き出し | 誰が何を入れ、何が返ったかを後から示せるか |
| 8. 根拠の表示 | 回答に文書名・ページ・条文が付くか | 照合の手間と見落としが変わる |
6 の情報遮断は見落とされがちです。LIBRA の特集は、事務所で共通の生成AIを使うと、アクセス権限を分けていても AI を介して別の事件の情報が出力されるおそれがあり、従来の情報管理の枠組みでは想定されていなかったリスクだと指摘しています。
事務所内のルールづくり
- 01
使ってよいサービスを決める
上の確認点で選んだサービスを、プランと設定まで含めて決めます。個人のアカウントでの業務利用を認めるかどうかも決めます。
- 02
入力しない情報を決める
例として、要配慮個人情報、相手方から開示された秘密、利益相反のある事件の情報。匿名化の方法も具体的に決めます。
- 03
確認の手順を決める
判例・条文の一次資料での確認、原文との照合、提出前に誰が読むかを決めます。
- 04
依頼者への説明を決める
委任契約書や説明書面に AI の利用を書くか、どの場合に説明・同意を求めるかを決めます。
- 05
キホトリを見直す
弁護士情報セキュリティ規程(2024年6月1日施行)に基づいて定める「情報セキュリティを確保するための基本的な取扱方法」(キホトリ)に、生成AIの扱いを加えます。
- 06
定期的に見直す
規約と仕様は変わります。使っているサービスの規約と設定を、時期を決めて確かめ直します。
弁護士報酬への反映も論点です。LIBRA の特集は、作業時間の短縮だけでなく、生成AIを使って提供する価値や責任の所在を踏まえて検討するよう述べています。
誤った出力(ハルシネーション)への備え
生成AIは、もっともらしい文章を確率的に作ります。存在しない判例や誤った条文番号が出ることがあり、海外では架空の判例を引用した書面が裁判所に提出され、制裁が科された例が報じられています(LIBRA 2026年7・8月号)。
- 判例・条文は、e-Gov 法令検索や裁判所の裁判例検索などの一次資料で確かめる
- 事件の資料に基づく回答は、根拠の文書とページを開いて原文と照合する
- 記録から確かめられないことを、AI が推測で埋めていないか確かめる
- 提出・送付の前に、弁護士が全文を読む
AILEX の設計
AILEX は、法律事務所向けに特化した AI リーガル OS です。上の確認点に、次のように応えています(AILEX v2、2026年10月25日時点)。
- 学習への利用
- 入力・出力は基盤モデルの学習に使われません(AWS の公表、利用契約 第7条)。
- 処理される場所
- 事件記録の保管は AWS 東京リージョン、AI の推論は Amazon Bedrock の国内限定推論プロファイル(東京・大阪)です(国内完結の仕組み)。
- 契約の形
- 事務所ごとに、秘密保持契約・データ処理契約を一体とした利用契約を結びます。
- 情報遮断
- 事件ごとに取扱者を限定でき、管理者も自動では入れません。
- 記録
- 80 種類以上の操作を監査ログに記録し、事務所で確認・書き出しできます(操作ログとセキュリティ)。
- 根拠の表示
- 事件チャットの答えに文書名・号証・ページを添え、記録から確かめられないことは「確認できません」と答えるようにしています(事件チャット)。
AILEX の出力は下書き・参考情報です。法的評価の確定と、送付・提出の判断は弁護士が行います。弁護士法・日弁連規程の各条と機能の対応は対応表で公開しています。
よくあるご質問
Q.01弁護士は生成AIを業務に使ってもよいですか?
Q.02ChatGPT などの汎用の生成AIに、依頼者の情報を入力してよいですか?
Q.03日弁連に、生成AIのガイドラインはありますか?
Q.04生成AIで作った書面を、そのまま裁判所に提出してよいですか?
Q.05生成AIを使うことを、依頼者に説明する必要はありますか?
Q.06AIを使うと、非弁行為(弁護士法第72条違反)になりますか?
出典(2026年10月25日確認)
- 弁護士法(e-Gov 法令検索)
- 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(会規第70号)
- 日本弁護士連合会「弁護士情報セキュリティ規程」(会規第117号、2024年6月1日施行)
- 東京弁護士会 会報 LIBRA 2026年7・8月号 特集「弁護士業務における生成AIの利活用と留意点」(PDF)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
- 法務省「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」(2026年8月21日、PDF)
- 経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」
- 文化庁「AIと著作権について」
関連ページ
- AIと弁護士法第72条 ─ 法務省ガイドライン(2023年・2026年)の要点
- 準備書面・訴状を AI で下書きする ─ 手順と、弁護士が確認すること
- 弁護士法・日弁連規程との対応(AILEX の自己評価 23 項目)
- AILEX セキュリティ白書
- 国内完結の仕組み(保管・AI 推論の所在地)
ご注意:本ページは一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の事案への当てはめや、守秘義務・個人情報保護法・弁護士法等への適合は、各事務所の業務と運用に照らして各事務所でご判断ください。記載は 2026年10月25日時点で確認した公表資料に基づきます。法令・ガイドライン・各サービスの規約は変更されることがあります。AILEX の AI 機能による出力は参考情報・ドラフトであり、内容の確認と最終的な判断は弁護士ご自身が行ってください。AILEX は、法律事件に関する鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を行うものではありません(弁護士法第72条)。当社の顧問弁護士事務所は弁護士法人えそらです(本ページの監修を意味するものではありません)。
公開日:2026年10月25日 最終更新日:2026年10月25日 編集:AILEX合同会社
