事件特定情報提供書面とは?電子判決書で強制執行を申し立てるときの証明書省略の書き方
電子判決書で勝訴した後、預金や給与の差押えを申し立てる――このとき、従来なら添付していた判決正本・執行文・送達証明書・確定証明書はどうなるのでしょうか。答えは「事件特定情報を提供すれば、記録事項証明書の添付を省略でき、送達証明書・確定証明書も不要になる」です。本記事では、改正民事執行法18条の2が定める事件特定情報の中身、原則(申立書のチェックボックス)と例外(事件特定情報提供書面)の使い分け、書面の記載項目、執行文が不要なケース、そして本案終了後に情報を取り出せなくなるリスクまで、準備の手引と最高裁掲載の書式をもとに解説します。
事件特定情報とは何か
準備の手引によれば、債務名義等の記録事項証明書の添付省略に必要な「事件特定情報」とは、事件が係属していた裁判所の名称、事件番号、および改正民執法18条の2各号に掲げるもの(個々の裁判・処分等)を識別するために裁判所が付した符号です(改正民執規則15条の2)。「符号」とは、執行機関が確認するファイルの特定に足りる情報を指し、例えば「判決」等の表題、判決等の年月日、当事者の氏名がこれに当たります。
重要なのは、事件特定情報が「記録事項証明書を提出すべき債務名義等ごとに異なる」点です。債務名義(判決・和解調書等)、執行文、更正決定は、それぞれ別個の裁判・処分ですので、記録事項証明書の提出を省略して民事執行を申し立てるには、債務名義の事件特定情報に加えて、執行文や更正決定の事件特定情報も提供する必要があります。
何が省略できるのか
| 書類 | 事件特定情報を提供した場合 | 根拠 |
|---|---|---|
| 債務名義・執行文の記録事項証明書 | 提出を省略できる | 改正民執法18条の2(原則は25条により提出が必要) |
| 送達証明書 | 提出不要 | 準備の手引「09 執行手続」 |
| 確定証明書 | 提出不要 | 準備の手引「09 執行手続」 |
裁判所ウェブサイトも「裁判所が電子的に作成した債務名義で民事執行の各手続を利用する場合、事件番号等の裁判所が定める情報を提供すれば、記録事項証明書や送達証明書等の提出は不要」と案内しています。この規律を使わない場合は、従来どおり紙の記録事項証明書等を取得して提出することになります(書面の記録事項証明の取得方法は電子判決書の記録事項証明の取得方法を参照)。
強制執行の申立て自体はまだ「書面」
ここで混同しやすいのが、手続ごとの電子化の進み具合です。準備の手引は、強制執行は改正民訴法施行後も改正民事執行法の全面施行(遅くとも令和10年6月)までは書面により申し立てる必要があるとしています。一方、電子判決書等に対する執行文付与の申立ては、訴訟代理人にはmints(督促手続オンラインシステム利用事件は同システム)による電子申立てが義務付けられています。つまり「執行文付与はmintsで電子申立て、強制執行の申立ては紙で、その紙の申立書に事件特定情報を載せる」という二重構造になります(執行文付与の新フロー、電子判決書と強制執行の全体像)。
原則は申立書のチェックボックス、例外が「事件特定情報提供書面」
最高裁は、裁判所が電子的に作成した債務名義に基づく申立て用の「申立書頭紙の例(債権執行の場合)」と「事件特定情報提供書面の例」を裁判所ウェブサイトに掲載しています。運用イメージは次のとおりです。
- 原則:申立書頭書のチェックボックスにチェックを入れ、裁判所名・事件番号などについて申立書(請求債権目録等)の記載を引用する方法で提供する。目録の記載を引用することで提供可能な場合が多いと考えられている
- 例外:申立書の一部として「事件特定情報提供書面」を提出する
申立書頭紙の例の注記によれば、事件特定情報提供書面が必要になるのは次の4つの場合です。
| ケース | 内容 |
|---|---|
| ア | 複数の債務名義に基づく申立てである場合 |
| イ | 執行文、更正決定・処分が複数ある場合 |
| ウ | 執行文、更正決定・処分が債務名義と異なる裁判所により作成された場合(例:控訴審判決で更正された場合) |
| エ | 督促手続オンラインシステムにより発付された仮執行宣言付電子支払督促に基づく申立てで、督促異議が申し立てられた場合(異議取下げ・却下があった場合を除く) |
事件特定情報提供書面の記載項目
「1つの債務名義により執行を申し立てる場合」の書式は、次の4項目で構成されています。
- 債務名義:「申立書(申立書の記載が訂正された場合には、訂正後のもの)記載のとおり」と引用する
- 執行文:付与年月日と、付与した裁判所(債務名義を作成した裁判所か、別の裁判所か)を記載。同じ日に複数の執行文が付与された場合は特定に足りる事項を備考欄に記載。執行文の付与を要しない場合は記載不要
- 更正決定又は更正処分:決定・処分の日と裁判所名。上訴審判決で債務名義が更正された場合は、その判決の事件番号を記載
- 督促異議による訴訟移行後の訴えが係属した裁判所名・事件番号(第1審):ケースエに該当する場合に記載
申立時に提出する場合は申立書にホチキス止めして申立書の一部として提出し、その場合は冒頭の事件番号・当事者・宛先などの記載は不要です。申立書とは別に追完書類として提出する場合は、執行事件の事件番号等を記載します。
執行文が不要なケース
書式の注記は、執行文の付与を要しない例として、債務名義が仮執行宣言付電子支払督促や少額訴訟の判決であって、当事者がこれらに表示された当事者と同一である場合を挙げています。この場合、申立書頭紙の「執行文」のチェックや、提供書面の「2 執行文」欄の記載は不要です。逆に、通常の判決に基づく執行では執行文が必要ですので、mintsで執行文付与を申し立て、付与年月日を控えておきます(督促手続オンラインシステムの解説)。
問題は「本案が終わると記録を見られなくなる」こと
事件特定情報は、裁判所名・事件番号・判決日・執行文の付与年月日など、mintsの記録一覧を見れば分かる情報ばかりです。ところが本案事件は判決確定日等を過ぎると当事者アカウントとの関連付けが解除され、閲覧には手数料が必要になります。準備の手引によれば、関連付け解除後に執行文付与を申し立てた場合、執行文は本案事件とは別の記録領域に保存され、執行文付与時に本案事件の訴訟記録(債務名義を含む)を閲覧・ダウンロードすることもできません。mints上では「執行文(R080521)」のような名称のファイルが債務名義とは別のファイルとして表示され、申立人に電子執行文が交付されるわけでもありません。判決確定前後のタイミングで、事件番号・判決年月日・執行文付与年月日・更正決定の有無を事務所側の記録に残すことが、後の強制執行をスムーズにします(事件終了後のデータ保存)。
AILEXなら本案から執行までの情報を事件単位で持ち続けられる
AILEX(エーアイレックス)の事件管理には、原告・被告・裁判所・事件番号のほか、判決日や執行文付与日といった重要日付を記録できます。ダウンロードした電子判決書や執行文のファイルをAI書類管理で事件に紐づけて保管し、AI文書生成で申立書の下書きを作れば、事件特定情報提供書面に転記する情報を探し回る必要がありません。電子送達の1週間ルールに対応した期限管理と、書類からの期日自動抽出・リマインダーが、判決確定日の把握から執行申立てのタイミングまでを支えます。mintsの記録が見られなくなった後も事務所に情報が残る――それがAILEXで事件を管理する価値です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
運営:AILEX合同会社(エーアイレックス)|顧問弁護士事務所:弁護士法人えそら
よくある質問
事件特定情報とは何ですか?
事件が係属していた裁判所の名称、事件番号、および裁判所が個々の裁判・処分を識別するために付した符号(判決等の表題、年月日、当事者の氏名など)です。改正民事執行法18条の2・改正民事執行規則15条の2に基づき、これを提供すると債務名義等の記録事項証明書の添付を省略できます。
事件特定情報提供書面はいつ必要ですか?
原則は申立書頭書のチェックボックスにより申立書の記載を引用して提供します。複数の債務名義に基づく場合、執行文や更正決定が複数ある場合、それらが債務名義と異なる裁判所で作成された場合、督促異議が申し立てられた仮執行宣言付電子支払督促に基づく場合には、事件特定情報提供書面を申立書に添付します。
強制執行の申立てもmintsでできますか?
いいえ。強制執行の申立ては改正民事執行法の全面施行(遅くとも令和10年6月)までは書面で行う必要があります。一方、電子判決書等に対する執行文付与の申立ては訴訟代理人にmintsでの電子申立てが義務付けられています。