裁判所の訴訟記録の保存期間と廃棄|mints時代の電子記録は10年(令和7年最高裁規程第4号)
「裁判所は訴訟記録を何年保存しているのか」「廃棄されたら判決はどうなるのか」――弁護士だけでなく当事者からも寄せられる疑問です。答えは事件の種類と紙の記録か電子記録かで異なります。従来の紙の民事訴訟記録は原則5年(判決原本は50年)ですが、改正民訴法の施行に合わせて令和7年12月17日最高裁判所規程第4号が制定され、mints(ミンツ)で電子申立てができる事件の電子記録は原則10年に延びました。本記事では、2つの保存規程の中身、起算点と廃棄の手続、特別保存と保存期間延長の要望、そして弁護士事務所側の記録保管との関係を、最高裁の一次資料をもとに整理します。
結論:事件の種類別・紙と電子の保存期間
| 記録の種類 | 紙の記録(事件記録等保存規程) | 電子記録(令和7年最高裁規程第4号) |
|---|---|---|
| 民事通常訴訟・少額訴訟・手形小切手訴訟・行政訴訟の事件記録 | 5年 | 10年 |
| 判決の原本/電子判決書 | 50年 | 50年(上訴審で事件を終局させる電子決定書・電子命令書も50年) |
| 和解・請求の放棄・認諾の調書/電子調書 | 30年 | 30年 |
| 和解に代わる決定の原本/電子決定書 | 30年 | 30年 |
| 和解事件の記録 | 3年(和解調書30年) | 10年(和解電子調書30年) |
| 督促事件 | 3年(送達前取下げ等5年)、支払督促の原本30年 | 10年、確定判決と同一の効力を有する電子支払督促30年 |
| 訴訟費用額確定の決定・処分 | 原本30年 | 電子決定書・電子処分書30年 |
| 保全命令事件 | 5年、保全命令の原本10年 | (保全事件は令和10年6月までにデジタル化予定) |
| 民事調停事件 | 5年、調停調書30年 | 同上 |
| 破産・再生事件 | 5年、開始決定原本30年 | 同上 |
紙の記録の保存期間は「事件記録等保存規程」(昭和39年最高裁判所規程第8号、令和8年4月22日改正版が最新)の別表第一によります。電子記録の保存期間は「電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができる事件の事件記録保存規程」(令和7年12月17日最高裁判所規程第4号)の4条と別表によります。
電子記録の保存規程は「新法事件」に適用される
令和7年最高裁規程第4号は、改正民訴法の施行日(令和8年5月21日)から施行され、施行日以後に提起された訴えに係る事件や施行日以後に開始される民事訴訟に関する事件に適用されます(附則2項)。これらの事件には従来の事件記録等保存規程は適用されません(附則4項)。人事訴訟や家庭裁判所の執行関係訴訟は除外されており、これらは令和5年法律第53号によるデジタル化の対象として別途扱われます。旧法事件(令和8年5月20日以前に提起された事件)の紙の記録は、引き続き事件記録等保存規程の別表に従います(旧法事件と新法事件の見分け方)。
電子記録の保存期間が10年に延びた点は、控訴・上告や執行、再審の可能性を考えると当事者に有利な変更です。もっとも、次に述べるとおり「裁判所が保存している」ことと「当事者がいつでも無料で見られる」ことは別問題です。
起算点・保存裁判所・廃棄の手続
- 起算点:裁判の確定その他の事由による事件完結の日から起算します(両規程とも)。
- 保存裁判所:原則として当該事件の第一審裁判所。再審事件は対象裁判をした事件の記録を保存する裁判所。
- 廃棄:保存期間が満了した記録は廃棄されます。電子記録の規程では、廃棄は裁判所の長の認可を受け、首席書記官の指示を受けて行うこととされ、特別保存に付する認定をしたものは除かれます(7条)。
- 国立公文書館への移管:公文書管理法に基づき歴史公文書等として移管することとされた記録は、最高裁の指示を受けて国立公文書館に送付されます。
特別保存──「誰でも要望できる」永久保存の仕組み
平成31年に重要な憲法判断が示された民事事件の記録が廃棄されていたことが判明した問題を受け、最高裁は令和5年11月に「事件記録等の特別保存に関する規則」を制定し、令和6年1月30日から新たな特別保存の運用を開始しました。史料または参考資料となるべき記録は永久に保存され(特別保存)、従来の「2項特別保存」は「特別保存」に名称を変えています。特別保存は誰でも要望することができ、令和7年11月4日からはオンラインでも要望できるようになりました。東京地裁の案内によれば、認定基準には、重要な憲法判断や重要な判例となった事件、世相を反映し史料的価値の高い事件、全国的に社会の耳目を集めた事件などがあり、最高裁判例集掲載事件や主要日刊紙2紙以上に終局記事が掲載された事件は要望の有無にかかわらず認定されます。要望は保存期間満了日が属する年の10月末日までに行うよう協力が求められています。
保存期間の延長──執行や再審の見込みがあるとき
特別保存とは別に、「特別の事由により保存期間満了の後も保存の必要があるもの」は、その事由のある間、保存期間が延長されます(事件記録等保存規程9条、令和7年規程8条)。東京地裁が挙げる延長の例は、保存期間満了後に債務名義に係る債務の履行期が到来する事件、再審や和解無効確認等の事件が係属し、または係属することが予想される事件などです。こちらも令和7年11月4日からオンラインで要望できます。長期の分割払い和解や将来給付判決を扱った事件では、満了前に延長を要望しておく価値があります。
自分の事件の保存期間を確認する方法
保存期間は「事件完結の日」から数えます。判決が確定した日、和解が成立した日、取下げが効力を生じた日などが起算点です。控訴審まで争った事件でも、記録の保存裁判所は原則として第一審裁判所ですので、記録の閲覧・謄写や保存期間延長の要望は第一審裁判所に対して行います。事件番号(年度・符号・番号)と当事者名が分かれば特定できますので、事件終了時に事務所の事件台帳へ「完結日」と「保存期間満了予定年」を記録しておくと、延長要望の期限管理が容易になります。
弁護士事務所の保管との関係──「裁判所にある」は「見られる」ではない
裁判所が10年保存していても、mints上の事件情報と当事者アカウントの関連付けは判決確定日等の後に解除され、それ以降の閲覧には手数料が必要です。電子判決書や和解調書は関連付け解除前にダウンロードし、事務所側で保管するのが原則です(事件終了後のデータ保存、記録の閲覧と手数料)。弁護士自身の記録保管義務や保管期間の考え方は弁護士の記録保管義務で整理していますが、裁判所の保存期間と事務所の保管期間は別々に設計する必要があります。
問題は「保存期間を知らずに証明書の取得を後回しにする」こと
紙の記録が5年で廃棄される時代には、確定証明や記録事項証明の取得を後回しにして困る例がありました。電子記録は10年に延びたとはいえ、関連付け解除後は有料になり、閲覧・謄写の申請にも時間がかかります。判決確定後の登記や執行に必要な証明は確定直後に取得し、10年後に廃棄され得ることを前提に、事務所側で完全なコピーを持つ運用が合理的です(電子判決書の記録事項証明の取得方法)。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
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よくある質問
裁判所は民事訴訟の記録を何年保存しますか?
紙の記録は事件記録等保存規程の別表により、民事通常訴訟事件の記録が5年、判決の原本が50年、和解調書が30年です。令和8年5月21日以降にmintsで電子申立てができる事件の電子記録は、令和7年12月17日最高裁判所規程第4号により原則10年、電子判決書は50年、和解の電子調書は30年です。いずれも事件完結の日から起算します。
保存期間が過ぎた記録は必ず廃棄されますか?
原則として廃棄されますが、史料や参考資料となる記録は特別保存として永久に保存され、誰でも要望できます(令和7年11月4日からオンライン要望が可能)。また、債務名義の履行期が満了後に到来する場合や再審が予想される場合などは、特別の事由として保存期間の延長を要望できます。
裁判所が保存していれば、判決書は後からいつでも見られますか?
mints上では判決確定日等の後に事件情報とアカウントの関連付けが解除され、以後の閲覧には手数料が必要です。電子判決書や和解調書は関連付け解除前にダウンロードし、事務所側で保管しておくことが原則です。