TreeeS開発遅延の真相|なぜ裁判IT化の新システムは間に合わなかったのか
TreeeS開発遅延——何が起きたのか
2025年2月、最高裁判所はTreeeS(ツリーズ)の導入延期を正式に決定しました。当初は2024年10月に完成し、約1年半の習熟期間を経て2026年5月の改正民訴法フェーズ3施行に間に合わせる計画でした。しかし現実は計画どおりに進みませんでした。
報道が30億円超と伝えるこのプロジェクトに何が起きたのか。公開情報から読み解きます。
開発遅延の時系列
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2023年4月 | TreeeS本体の開発が「東京都内の会社」に委託される(企業名は最高裁が不開示) |
| 2024年10月 | 当初の完成目標時期——しかし完成せず |
| 2024年12月5日 | 最高裁事務総局が日弁連・日本司法書士会連合会に対し「mintsでの施行も検討」と通知 |
| 2025年2月 | TreeeS導入延期が正式決定 |
| 2025年7月 | 公募公告によれば基本機能部分は2025年8月末完成目標で総合テスト中 |
注目すべきは、2024年12月の時点ですでに「TreeeSではなくmintsで施行する」選択肢が浮上していたことです。開発遅延は突然発覚したものではなく、段階的に深刻化していったことがわかります。
遅延の技術的原因①:RoootSとの連携の壁
TreeeS開発遅延の最大の要因は、RoootS(ルーツ)との連携部分にあります。RoootSは裁判所職員が使うe事件管理システムで、TreeeSとは「疎結合」で接続する設計でした。
しかしRoootSはマイクロサービスアーキテクチャを採用しているのに対し、TreeeSのe提出・e記録管理部分は非マイクロサービス構成で設計されました。このアーキテクチャの混在が、統合の最大の障壁となりました。
RoootS自体もトラブル続き
RoootS自体も順調ではありませんでした。当初2024年1月に先行導入予定だったものが、総合テストでのバグ多発により延期を繰り返し、最終的に2024年7月16日にようやく導入されました。
最高裁事務総局の会議資料には「テストが予定どおり進まないケースが見られるようになり、バグの解消に時間を要し、バグを解消してシナリオを進めると更に別のバグが発生」と記録されています。
遅延の技術的原因②:人材不足
根本的な原因として、受注業者において裁判所の業務を踏まえてシステム全体の仕様や整合性をチェックできる人材が乏しかったことが指摘されています。
裁判手続は非常に複雑で、民事訴訟・家事事件・保全手続など手続類型ごとに異なるルールがあります。これらをシステムに落とし込むには、法律の知識とIT技術の両方に精通した人材が必要ですが、そのような人材は極めて希少です。
最高裁は対策として、単なる開発要員の増員ではなく、最高裁職員を受注業者の開発現場に直接出張させるという異例の措置をとりました。
前例:2004年のシステム全国展開中止
実は裁判所の大規模システム開発の失敗には前例があります。2004年5月、ロータス・ノーツ基盤の裁判事務処理システムの全国展開が中止されました。裁判所の業務は外部からは見えにくく、要件定義の難しさは昔も今も変わらないことがわかります。
mints改修版での施行——「次善の策」の実態
TreeeSの導入延期を受けて、2026年5月21日のフェーズ3施行はmints改修版で対応することになりました。具体的には以下の機能がmintsに追加されています。
- 2025年10月25日:新規申立て機能(訴状のオンライン提出)
- 2026年2月21日:電子納付機能(ペイジー対応)
- 施行後:電子送達(システム送達)が全面稼働
ただしmintsの改修はあくまで「次善の策」です。ウェブ会議はTeamsのまま、事件管理との連携は限定的で、TreeeSが当初目指していた統合的なデジタル体験とは距離があります。
開発は中止されていない——TreeeSの今後
重要なのは、TreeeSの開発自体は中止されていないという点です。2025年7月時点で基本機能の総合テストは継続中であり、利用者の負担を考慮して実際の導入を先送りしただけです。
さらに2025年7月2日には、第3次開発の公募公告が出されました。家事事件手続・人事訴訟手続・民事執行等にもTreeeSを対応させる改修で、契約期間は令和10年(2028年)3月31日までです。最高裁は長期的にはTreeeSを本格導入する方針を崩していません。
弁護士が今やるべきこと
TreeeSを待つのは得策ではありません。2026年5月21日のmints義務化は確実に来ます。弁護士が今やるべきことは以下の3つです。
- mintsアカウントの登録:施行前の登録なら本人確認資料の提出が不要で簡便
- mintsでの提出練習:PDFの作成・アップロード・直送の操作に慣れる
- 事務所のDXツールの整備:mints→TreeeSの二段階移行を見据えたツール選定
技術的な背景:アーキテクチャの混在
調達仕様書からは、遅延の技術的な背景をうかがわせる記述が読み取れます。RoootS(e事件管理)はマイクロサービスアーキテクチャを採用している一方、e提出・e記録管理システムは採用していないとされています。設計思想の異なるシステムを連携させる必要があったことになります。
また基盤については、第1次・第2次開発でMicrosoft Azureを利用しており、第3次開発でも第2次開発までを踏襲することが求められています。基盤は一貫しているものの、その上に載るシステムの設計方針が揃っていない構図です。
延期を示す公式通知(2024年12月5日)
最高裁は2024年12月5日、日弁連事務総長および日本司法書士会連合会宛に、改正民事訴訟法等が定める電子申立て・事件記録の電子化に対応するシステムとしてTreeeSの開発を進めているとしつつ、mintsでの施行も検討することとした旨を通知しました。これが実質的な延期表明にあたります。
「30億円超」は報道による数字
開発費として広く引用されている「30億円超」という金額は、報道および二次的な記事に由来するものです。裁判所の予算資料等の公的一次資料で当該金額を直接確認することはできていません。引用する際は報道ベースの数字であることを明示するのが正確です。開発を受託した企業名も、報道では「東京都内の会社」とされるにとどまり、公表されていません。
なおこの数字は伝播の過程で変形しており、「2025年度の開発費用として約30億円超」といった単年度予算であるかのような記述も見られます。報道が伝えているのは当初想定された事業規模であり、特定年度の予算額ではありません。
受託企業についても「NTTデータではない」といった断定を見かけることがありますが、公表情報からは肯定も否定もできません。報道が伝えているのは「東京都内の会社」という記述のみです。
AILEXなら、mints義務化もTreeeS移行も安心
AILEX(エーアイレックス)は、mintsへの電子提出における「うっかりミス」をゼロにする専用ツールです。
- AI提出前チェック:6項目の自動検証でミスを事前に検出
- PDF自動変換:Word/Excelからmints準拠のPDFを自動生成
- 送達管理:1週間ルールの自動カウントダウンで控訴期限を見逃さない
- 証拠説明書自動生成:AIが証拠の標目・立証趣旨を自動作成
TreeeSが導入された際にもAILEXはシステム変更に追従します。今AILEXで覚えたワークフローが、TreeeS時代にもそのまま活きます。
本記事は2026年3月時点の公開情報に基づいて作成しています。TreeeSの開発状況・導入時期は最高裁判所の方針により変更される可能性があります。本記事は法的助言を構成するものではありません。
運営:AILEX合同会社(info@ailex.co.jp)
顧問弁護士事務所:弁護士法人えそら