公開日: 2026年2月8日 著者: AILEX合同会社
2024年6月1日、日本弁護士連合会(日弁連)が制定した「弁護士情報セキュリティ規程」(会規第117号)が施行されました。これは単なる努力義務のガイドラインではなく、すべての弁護士に対し拘束力を持つ会規です。FAXと紙が主流だった法律事務所にも、デジタル時代のセキュリティ対策が「義務」として求められる時代が到来しました。
この記事では、日弁連情報セキュリティ規程の全容を条文レベルで解説したうえで、弁護士向けAI法務SaaS「AILEX(エーアイレックス)」がこの規程にどのように適合しているかを、技術的観点から詳細に分析します。
なぜ今、弁護士に「情報セキュリティ規程」が必要なのか
裁判手続のIT化という不可逆的な変化
2022年、改正民事訴訟法が成立しました。これにより、民事裁判手続の全面IT化が段階的に進められています。訴状のオンライン提出、期日のウェブ会議、訴訟記録の電子化——かつて紙の束でやり取りされていた事件記録が、すべて電子データとして扱われる時代が来ています。
この変化は、弁護士の情報管理に根本的な転換を迫ります。紙の書類であれば、金庫に入れ、鍵をかけ、物理的に管理すれば足りました。しかし電子データは、メール添付の誤送信、クラウドストレージの設定ミス、マルウェア感染、そしてAIサービスへの入力——あらゆる経路で意図せず外部に流出するリスクを抱えています。
旧ガイドラインの限界
日弁連は2013年に「弁護士情報セキュリティガイドライン」を策定し、2019年に改訂していました。しかしこのガイドラインは推奨にとどまり、法的拘束力はありませんでした。「できれば対応してください」という位置づけでは、特にITに不慣れな小規模事務所において、実効性のある対策は進みませんでした。
日弁連が2022年6月10日の第73回定期総会で新たな「規程」(会規)として可決したのは、推奨から義務への転換を意味しています。2年間の準備期間を経て2024年6月1日に施行されたこの規程は、弁護士法第23条の守秘義務をデジタル環境において具体化する規範として機能しています。
98%がFAXを使う業界で
日本の弁護士業界のデジタル化の遅れは顕著です。2026年にデジタル提出が義務化される状況下でも、98%の法律事務所がいまだFAXを使用しています。弁護士1〜5人の小規模事務所が全体の99.3%を占め、年間労働時間は平均2,321時間、弁護士の所得は過去20年で49%減少しています。
こうした状況下で「情報セキュリティ対策を義務化する」ことの重みは計り知れません。小規模事務所にとって、セキュリティ対策は「やらなければならないが、何をどこまでやればいいのかわからない」課題そのものです。
ここに、AILEXのようなSaaSプラットフォームの存在意義があります。個々の弁護士がゼロからセキュリティ対策を構築するのではなく、設計段階からセキュリティが組み込まれたプラットフォームを利用することで、規程への適合を効率的に実現できるからです。
弁護士情報セキュリティ規程の全体像
7条+附則のコンパクトな構成
規程は全7条と附則で構成されています。これは意図的にコンパクトにされたもので、各弁護士・法律事務所の規模や業務態様に応じた柔軟な対応を可能にする設計思想が反映されています。
全体の構造はPDCAサイクルに沿っています。
第1条(目的) は、弁護士等が取り扱う情報の漏えい等を防止し、情報セキュリティの確保を図ることを目的として宣言しています。
第2条(定義) では、「情報セキュリティ」をISO 27001と同様のCIA三要素(機密性・完全性・可用性)で定義し、「取扱情報」の範囲を規定しています。ここで注目すべきは、取扱情報が紙・電磁的記録を問わず、弁護士等が職務上取り扱うほぼすべての情報を対象としている点です。業者のチラシなどCIA三要素の維持が不要なものを除き、事件情報はもちろん、依頼者との連絡内容、証拠資料、相手方の情報に至るまで、ほぼすべてが対象に含まれます。
この広範な定義の帰結として、AIサービスに入力するデータも当然に規程の適用対象となります。ChatGPTに相談内容を入力する行為も、クラウドサービスに書面を保存する行為も、すべてこの規程の射程内にあるということです。
第3条(基本的な取扱方法の策定) は、PDCAサイクルの「Plan」に相当します。弁護士等に対し、取扱情報に関するリスクを把握したうえで、情報セキュリティに関する基本的な取扱方法を策定する義務を課しています。これは各事務所のセキュリティポリシーの策定義務と理解できます。
第4条(安全管理措置) は「Do」の中核です。組織的安全管理措置、人的安全管理措置、物理的安全管理措置、技術的安全管理措置の4分野にわたる措置の実施を求めています。具体的な措置内容は、事務所の規模や業務態様に応じて異なりますが、日弁連が公開している「基本的な取扱方法」のモデル案が実務上の指針となります。
第5条(情報のライフサイクル管理) も「Do」に分類されます。情報の作成、取得、利用、保管、提供、送信、移送、廃棄という全8段階において、適切な取扱いを求めています。外部AIサービスへのデータ送信は「送信」および「提供」に該当し得るため、この条文がAI利用に最も直接的に関わる条文の一つといえます。
第6条(点検及び改善) は「Check/Act」です。技術の進歩や社会環境の変化に対応して、基本的な取扱方法を定期的に点検し、必要に応じて改善する努力義務を定めています。AI技術の急速な発展を踏まえれば、この点検・改善のサイクルは特に重要です。
第7条(漏えい等事故発生時の対応) は有事の「Do」です。情報漏えい等の事故が発生した場合の対応を規定しています。影響範囲の把握、被害拡大防止、原因調査、再発防止策の策定が求められます。
「取扱情報」の範囲が意味すること
規程が対象とする「取扱情報」の広さは、弁護士業務におけるAI利用を考える上で極めて重要です。
弁護士が依頼者から預かった情報をAIチャットに入力する場合、その入力データは「取扱情報」に該当します。AIが生成した回答にも、元の取扱情報に由来する情報が含まれている可能性があります。つまり、AIの利用プロセス全体が規程の適用範囲に入るということです。
これは、弁護士がAIを業務で利用する際に、以下の点を確認する必要があることを意味します。
- AIサービスに入力する情報の範囲は適切か
- AIサービス提供者がデータをどのように取り扱うか(保持期間、学習利用の有無)
- データの送信時の暗号化は確保されているか
- AIサービスの利用がセキュリティポリシーに記載されているか
守秘義務の法的構造とAI利用への影響
三重の守秘義務
弁護士の守秘義務は、日本法上、三重の法的基盤に支えられています。
第一層は弁護士法第23条です。「弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う」と規定しています。この守秘義務は弁護士の「権利」でもある点が特徴的で、捜査機関からの照会に対しても拒否できる根拠となります。
第二層は弁護士職務基本規程です。第23条で依頼者の秘密の漏えい・利用を禁止し、第18条で事件記録中の秘密・プライバシー情報の漏えい防止義務を課しています。
第三層は刑法第134条第1項(秘密漏示罪)です。医師、弁護士等の法律上の守秘義務を持つ職業人が正当な理由なく秘密を漏示した場合、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金が科されます。弁護士の守秘義務違反は、民事上の問題にとどまらず、刑事罰の対象にもなるのです。
情報セキュリティ規程と守秘義務の直結
弁護士情報セキュリティ規程は、これら守秘義務規定のデジタル環境における実施基盤として位置づけられています。規程第7条の「事故」概念は、守秘義務・事件記録管理義務に抵触する重大事象と定義されており、両者の直結性は明確です。
規程違反の懲戒対象性について、日弁連Q&Aでは「その時点におけるセキュリティ対策に関する社会のすう勢を踏まえた一定の水準から見て非難されてもやむを得ないものであったか否か」が判断基準とされています。
つまり、「業界で一般的に実施されているセキュリティ対策を怠った場合、懲戒処分のリスクがある」ということです。現在、多くの法律事務所がクラウドサービスやAIツールを導入し始めている中で、それらの利用に際して適切なセキュリティ対策を講じることは、もはや任意ではなく、懲戒リスクの観点から事実上の義務となっています。
生成AI利用という新たな課題
外部の生成AIサービスに依頼者の情報を入力する行為は、守秘義務との緊張関係を生みます。
保守的な解釈では、秘密情報をAPI経由で外部事業者のサーバに送信した時点で「秘密の漏洩」と評価されます。この立場に立てば、AIサービスの利用には依頼者の明示的な同意が必要となり、場合によってはAI利用そのものが守秘義務違反のリスクを伴うことになります。
緩和的な解釈では、入力情報がAIモデルの学習に利用されず、保存もされず、秘密保持義務が契約上明記されている場合には「漏洩」に該当しないとする余地があります。
この点については、日弁連が2023年6月にAI戦略ワーキンググループを設置し、検討を進めています。2025年には会員限定資料「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項〜適切な利活用に向けた5つのポイント」が公表されましたが、この文書は「日弁連としての公式な見解を示すものではない」と付記されています。
つまり、2026年2月の現時点でも、弁護士による生成AI利用の適法性に関する明確な公式基準は存在しないのが実情です。この不確実性の中で、弁護士がAIを安全に利用するためのインフラとなるのが、AILEXのようなセキュリティ設計が施されたプラットフォームです。
旧ガイドラインが示していた外部サービス利用の要件
情報セキュリティ規程の施行に伴い廃止された旧「弁護士情報セキュリティガイドライン」(2013年制定、2019年改訂)は、外部サービスの利用について具体的な要件を定めていました。Gmail、Dropbox等のクラウドサービスを念頭に置いたこれらの要件は、規程廃止後も実質的に各事務所の「基本的な取扱方法」に引き継がれています。
旧ガイドラインが求めていた4つの要件
第一に、第三者への情報非提供の保証確認。 サービス運営者が規約等で第三者への情報提供をしないことを保証していることの確認が求められていました。保証がない場合は利用禁止です。これをAIサービスに当てはめれば、APIプロバイダがユーザーデータを学習に利用しないことの確認が必要となります。
第二に、適切な認証によるなりすまし防止。 ログインID・パスワード等による認証の確保です。現代のセキュリティ基準に照らせば、二要素認証(2FA)の導入が望ましいと解されます。
第三に、サービス利用停止時のデータ消去。 クラウドサービスを解約した際に、保存されていたデータが確実に消去されることの確認です。AIサービスにおいては、ゼロデータリテンション(ZDR)の確保がこの要件に対応します。
第四に、共有時の漏えい防止措置。 事件情報を他の弁護士と共有する際の漏えい防止措置です。SaaSにおいては、ロールベースのアクセス制御(RBAC)がこの要件に対応します。
現行規程下での実務基準
日弁連が公開しているモデル案に基づき、各法律事務所が公表している「情報セキュリティに関する取扱規程」の実例を見ると、外部サービス利用に関して以下の要件が標準的に含まれています。
- 委託先選定基準: 適切なセキュリティ対策の実施確認
- 第三者提供・目的外利用の禁止: 契約上の明記
- 委託終了時のデータ返還・消去: 取り決めの締結
AIサービスを利用する場合も、これらの基準に照らしてプロバイダの適格性を評価する必要があります。
AILEXとは何か——弁護士のための「リーガルOS」
本題に入る前に、AILEXの概要を改めて整理します。
AILEX(エーアイレックス)は、弁護士1〜5名の小〜中規模法律事務所を主なターゲットとするAI法務支援クラウドSaaSです。訴訟文書・交渉文書の作成支援、AI法律相談チャット、AIファクトチェック、事件管理、文書管理(OCR対応)、スケジュール管理、コンフリクトチェック、請求書管理を一つのプラットフォームに統合した「リーガルOS」を目指しています。
技術アーキテクチャの特徴
AILEXはデュアルLLM構成を採用しています。AI法律相談チャットにはAnthropic Claude APIを、AI文書生成にはOpenAI GPT-4o APIを、ファクトチェックにはPerplexity Sonar APIを使用しています。これにより、各APIプロバイダの障害時にもサービス全体が停止しないフォールトトレラント設計を実現しています。
認証基盤としては、二要素認証(2FA)、LINE Login統合、reCAPTCHA v2を実装し、マルチロール認証(admin/attorney/paralegal/staff)による4段階の権限分離を備えています。
そして、AILEXの最も重要なセキュリティ機能がPII自動マスキングシステムです。
PII自動マスキング——AILEXの中核防御層
PIIマスキングシステム(PIIMasker)は、外部AI APIへのリクエスト送信前に個人識別情報(PII)をプレースホルダに自動置換し、APIレスポンス受信後にプレースホルダを原文に復元するセキュリティレイヤーです。
処理フローを簡潔に示すと、以下のようになります。
ユーザー入力 → PIIMasker.mask() → マスク済テキスト → 外部API送信
↓
ユーザー表示 ← PIIMasker.unmask() ← マスク済応答 ← API応答
外部APIサーバーに到達するデータには、事件番号・当事者名・裁判所名が含まれない状態になっています。仮にAPIプロバイダ側でデータが保持されたとしても、個人を識別することは不可能です。
マスキングには2つのモードがあります。structuredモード(デフォルト)では、事件データベースからマッピングテーブルを自動構築し、事件番号、原告名、被告名、裁判所名をプレースホルダに置換します。例えば「原告:山田太郎」は「[原告]」に、「令和5年(ワ)第123号」は「[事件番号]」に変換されます。複数当事者がいる場合も「[原告A]」「[原告B]」のように個別に対応します。
fullモードでは、structuredの対象に加えて、正規表現パターンによる追加検出を行います。電話番号、郵便番号、メールアドレス、生年月日、銀行口座番号、マイナンバーなど、事件データベースに登録されていないPIIパターンも検出・マスキングの対象となります。
なぜPIIマスキングが決定的に重要なのか
AILEXの開発において、「クライアントへのAI利用同意説明が必要となると、弁護士事務所は使わない」という洞察が出発点にあります。
弁護士がAIツールを使うたびに依頼者一人ひとりに「AIにあなたの情報を入力しますがよろしいですか」と説明し同意を得る——これは理論上は可能ですが、実務上は極めて高いハードルです。特に小規模事務所では、この手間が導入を断念させる最大の要因となります。
PIIマスキングは、この問題を技術的に解決します。外部APIに到達するデータに個人識別情報が含まれないのであれば、依頼者のプライバシーは構造的に保護されており、個別の同意説明の必要性は大幅に低減されます。これはAILEXの市場戦略上の差別化ポイントであると同時に、日弁連規程への適合性を支える中核的な設計判断でもあります。
日弁連規程の各条文とAILEXの適合性:詳細分析
ここからは、規程の各条文の要件に対するAILEXの対応状況を具体的に評価していきます。
第3条:基本的な取扱方法の策定
規程第3条は、弁護士等に対し、取扱情報に関するリスクを把握したうえで基本的な取扱方法を策定することを義務づけています。
AILEXは、マルチロール認証と包括的監査ログによってリスク可視化の基盤を提供しています。admin/attorney/paralegal/staffの4段階の権限設定により、事務所の規模や体制に応じたカスタマイズが可能です。
ただし、AILEXは現時点では「基本的な取扱方法」のテンプレート提供機能を持っていません。規程が求めるセキュリティポリシーの策定を支援するためには、セキュリティホワイトペーパーの提供や、事務所向けのポリシー策定ガイドの整備が今後の課題となります。
第4条:安全管理措置
第4条は規程の中核をなす条文で、組織的・人的・物理的・技術的の4分野にわたる安全管理措置を求めています。
技術的安全管理措置
アクセス認証については、AILEXは二要素認証(2FA)、LINE Login統合、reCAPTCHA v2を実装しています。2FAはメールベースのワンタイムパスワード方式で、試行回数は5回に制限され、11分で自動的にセッションが破棄されます。ブルートフォース攻撃に対するログイン試行制限も実装済みです。この分野のカバレッジは十分です。
アクセス権限管理については、admin/attorney/paralegal/staffの4段階のロールベースアクセス制御(RBAC)を実装しています。adminは全データ閲覧可能ですが、それ以外のロールは自分が作成した事件・文書・チャットのみにアクセスが制限されます。AI文書生成の最終出力はattorneyロールのみが確定・ダウンロード可能とすることで、弁護士の精査義務を技術的に担保しています。
通信の暗号化については、HTTPS/TLS通信がすべてのAPI通信を含めて前提となっています。さらにSHA256ローカルハッシュ化による追加保護を実装しています。
不正アクセス防止については、reCAPTCHA、2FA、ロールベースアクセス制御の多層防御を構成しています。CSRFトークンの全POSTリクエストへの適用、XSS防止のための全出力エスケープ、SQLインジェクション防止のためのPDOプリペアドステートメントなど、OWASP Top 10に対応するWebアプリケーションセキュリティも実装済みです。
ログ管理・監査証跡については、AuditLoggerによる全重要操作の記録システムを実装しています。ログイン成功・失敗、事件作成・削除、AI文書生成、ユーザー管理操作等がタイムスタンプ、IPアドレス、User Agent、重要度レベルとともに記録されます。PIIマスキングの実行記録も、原文を含まない統計情報として記録されます。
組織的安全管理措置
セキュリティ責任者の明確化については、admin権限による管理者設定で対応しています。各法律事務所において情報セキュリティの責任者を明確にし、AILEXのadminロールに紐づける運用が推奨されます。
委託先管理については、AILEXがOpenAI、Anthropic、Perplexityの3社のAPIを使用していることの開示が重要です。各社はSOC 2 Type II認証を取得しており、データ処理契約(DPA)も利用可能です。ただし、各社との契約関係の詳細やZDR(ゼロデータリテンション)契約の締結状況についての明確な開示が課題です。
人的安全管理措置
利用者教育・研修については、AILEXプラットフォーム自体の機能ではありませんが、利用マニュアルやセキュリティガイドの提供が望まれます。事務職員等への対策については、マルチロール認証によりparalegal/staffの権限を制限可能であり、弁護士の監督下での利用に技術的に制限できます。
第5条:情報のライフサイクル管理
第5条は情報の全ライフサイクルにわたる適切な管理を求めています。AILEXの対応を段階ごとに見ていきます。
作成・取得の段階では、ケース管理機能と文書管理機能(ZIP import、AI-OCR対応)により、セキュアな情報作成・取込み環境を提供しています。
利用の段階では、PIIマスキングが中核的な役割を果たします。弁護士がAI機能を利用する際、入力テキスト中の個人識別情報は自動的にプレースホルダに置換されてから外部APIに送信されます。この仕組みにより、守秘義務保護と業務効率化を両立しています。
保管の段階では、ロールベースのアクセス制御付きストレージにより、権限のないユーザーが事件情報にアクセスすることを防止しています。
送信・提供の段階は、AIの外部API利用において最も重要です。AILEXの3つのAI機能(チャット、ファクトチェック、文書生成)すべてにPIIマスキングが適用されています。API通信はTLS暗号化で保護され、PIIマスキングとの二重保護を実現しています。
ただし、ZIPインポート時のOCR処理(Anthropic Claude APIへのPDFバイナリ送信)については、テキストレベルのマスキングが構造上不可能であるため、PIIマスキングは非適用です。これはOCR/解析フェーズであり法的助言生成フェーズではないため、リスクレベルは相対的に低いと評価されますが、ユーザーへの明確な説明が重要です。AILEXはインポート画面に「⚠️ インポート時はPDFをそのままAIに送信」+「🛡️ インポート後はマスキング適用」の注記を表示しています。
廃棄の段階では、ゼロデータリテンション(ZDR)対応が鍵となります。Perplexity APIはデフォルトでZDRが適用されますが、OpenAIとAnthropicのAPIはデフォルトで30日間のデータ保持があるため、ZDR契約の締結が望ましい状況です。ただし前述のとおり、PIIマスキングにより保持されるデータに意味のある個人情報は含まれないため、実質的なリスクは限定的です。
第6条:点検及び改善
第6条はセキュリティ対策の定期的な点検と改善を努力義務として定めています。
AILEXの包括的監査ログは、点検のための基礎データを提供します。デュアルLLM構成は、技術進歩への対応力を示すものです。特定のAIモデルに依存せず、最新・最適なモデルへの柔軟な移行が可能な設計は、AI技術の急速な発展期において重要なアーキテクチャ上の判断です。
SaaSモデルの特性として、プラットフォーム側のアップデートが自動的にすべてのユーザーに反映されるため、個々の事務所が技術的な改善対応を行う負担は軽減されます。
第7条:漏えい等事故発生時の対応
第7条は情報漏えい事故発生時の対応を規定しています。
AILEXの監査ログにより、いつ・誰が・どのデータにアクセスしたかの追跡が可能です。これは影響範囲の把握と原因調査の基盤となります。ロール権限の変更や2FAの強制適用により、再発防止策を講じることも可能です。
ただし、AILEX側のインシデント対応SLA(検知から通知までの時間)、連絡窓口、データ侵害時の手順書は、利用契約または別紙として明文化・提供する必要があります。admin権限によるアカウント即座停止やデータアクセス遮断機能の有無と手順の明確化も重要な課題です。
外部APIプロバイダのセキュリティ体制
AILEXが利用する3つのAPIプロバイダのセキュリティ体制は、日弁連規程の委託先管理要件に照らして重要な評価項目です。
OpenAI(GPT-4o)
OpenAI APIは、APIデータをデフォルトでモデル学習に使用しません。ただし、不正利用監視目的で30日間のデータ保持が行われます。ZDR(ゼロデータリテンション)オプションは利用可能ですが、事前承認が必要です。SOC 2 Type IIおよびISO 27001認証を取得しており、保存時暗号化はAES-256、通信暗号化はTLS 1.2+を採用しています。DPA(データ処理契約)も利用可能です。
2025年以降、OpenAIは日本を含む10以上の地域でデータレジデンシーオプションを提供開始しており、日本リージョンを選択することでデータの越境移転問題を回避できる可能性があります。
Anthropic(Claude)
Anthropic Claude APIも、APIデータをモデル学習に使用しません。データ保持期間は2025年9月15日以降7日間に短縮されました。ZDRオプションも利用可能です。SOC 2 Type IIおよびISO 27001認証を取得しており、DPAは自動適用されます。
Perplexity(Sonar)
Perplexity Sonar APIは、デフォルトでゼロデータリテンションが適用される点が特筆されます。基盤モデルのトレーニングに顧客コンテンツを使用しないことも規約に明記されています。SOC 2 Type II認証を取得しています。
PIIマスキングが持つ構造的意味
上記3社のセキュリティ体制はいずれも一定水準以上ですが、AILEXのPIIマスキングはこれに加えて独立した防御層を構成しています。
仮にAPIプロバイダ側でセキュリティインシデントが発生し、保持データが漏洩したとしても、PIIマスキング済みのデータからは個人を特定することができません。これは「ベルトとサスペンダー」のような多重防御であり、弁護士の守秘義務保護において極めて高い安全性を実現しています。
このアプローチは、個人情報保護法上も意味があります。PIIマスキング後のデータが「個人データ」に該当しないのであれば、外部APIへの送信は「第三者提供」に該当しないと整理できる可能性があります。個人情報保護委員会Q&A 7-53の「クラウド例外」——クラウド事業者が個人データを「取り扱わないこと」が契約で定められ、適切なアクセス制御がある場合は「提供」に該当しない——との整合性も確保しやすい設計です。
生成AI利用に関する最新の規制動向
日弁連AI戦略ワーキンググループの動き
日弁連は2023年6月にAI戦略ワーキンググループを設置し、弁護士業務への生成AIの影響を検討しています。2025年には「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項〜適切な利活用に向けた5つのポイント」を公表しました。
この文書の詳細は会員限定ですが、関連セミナーや法律事務所の独自ガイドラインから、以下の5領域をカバーしているものと推定されます。
- 守秘義務・秘密保持の確保 — 外部AIへの秘密情報入力の制限、AI学習利用リスクの回避
- AI出力の正確性の検証義務 — ハルシネーション対応、原典での裏付け
- 情報セキュリティの確保 — 利用規約・プライバシーポリシーの精査、オプトアウト設定確認
- 著作権・知的財産権への配慮 — AI出力物の著作権侵害リスク
- 個人情報保護法の遵守 — 個人データの適法な取扱い
日弁連は「公式な見解を示すものではない」と付記していますが、事実上の準公式指針として業界に受容されています。
2026年の規制環境
2026年1月9日、規制改革推進会議(第6回デジタル・AIワーキング・グループ)で、法務省は2023年に策定したAI契約書レビューサービスに関するガイドラインの運用見直しを表明しました。タスクフォース設置による段階的課題解決の方針が示されており、より明確なガイドラインが今後示される可能性があります。
同時に、2025年9月に全面施行されたAI推進法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)は理念法ではありますが、AI活用推進の基本方針を示すものとして、弁護士法の解釈にも影響を与え得ます。
日弁連の2025年度会務執行方針では、「弁護士がAI技術を利活用したとしても、導き出された結果を法の理念や趣旨に基づいて常に検証していかなければならず、弁護士も思考することを止めてはいけない」との姿勢が示されています。
隣接士業の先行事例
注目すべきは、日本弁理士会が2025年4月に策定した「弁理士業務AI利活用ガイドライン」です。弁護士向けの正式なガイドラインがまだ策定中であるのに対し、弁理士業界では先行して具体的な指針が示されています。このガイドラインの要件はAILEXの適合性評価における参考指標としても有用です。
AILEXに求められる追加対応
調査結果を総合すると、AILEXは日弁連規程の要件に概ね適合していますが、以下の5つの領域で追加対応を推奨します。
1. ZDR契約の締結と明示
OpenAIとAnthropicのAPIはデフォルトで一定期間のデータ保持があります。PIIマスキングにより保持データに意味のある個人情報は含まれないとはいえ、形式的なコンプライアンス上はZDR契約の締結が望ましいです。契約済みであれば、その旨を利用事務所に明確に開示すべきです。
2. データ越境移転の法的整理
OpenAIとAnthropicのサーバーは主に米国に所在します。個人情報保護法上の「外国にある第三者への提供」該当性について、PIIマスキング後のデータが個人データに該当しない旨の法的整理を文書化する必要があります。OpenAIが提供する日本リージョンの利用可否の確認も推奨されます。
3. インシデント対応体制の明文化
規程第7条に対応する、AILEX側のインシデント対応手順を利用契約の一部として提供すべきです。検知から通知までの時間目標(SLA)、連絡窓口、エスカレーションフローの明確化が必要です。
4. PIIマスキングの精度保証
マスキングの信頼性は守秘義務コンプライアンスの根幹です。マスキング精度のベンチマーク結果、定期的な精度検証の仕組み、マスキング漏れが発生した場合の対応手順を整備することが推奨されます。
5. コンプライアンス支援文書の整備
各法律事務所が「基本的な取扱方法」を策定する際にAILEX利用を盛り込めるよう、以下の文書を整備・提供することが望ましいです。
- セキュリティホワイトペーパー
- APIプロバイダのDPA締結状況一覧
- 推奨セキュリティ設定ガイド
- 利用事務所向けの規程対応テンプレート
AILEXが示す、弁護士業務AIの「あるべき姿」
Security by Designという思想
AILEXのアーキテクチャは、日弁連規程が求める安全管理措置の多くを設計段階から組み込んで(Security by Design) います。セキュリティは事後的に追加されたものではなく、プラットフォームの基本設計に織り込まれています。
PIIマスキング+ZDR対応+デュアルLLM+包括的監査ログという組み合わせは、弁護士の守秘義務とAI活用の両立を技術的に実現するために必要な要素をカバーしています。これは、汎用のAIツール(ChatGPT、Claude.ai等)をそのまま弁護士業務に使用する場合には得られない、弁護士業務に特化した安全設計です。
「同意説明不要」の実現
繰り返しになりますが、AILEXのPIIマスキングが実現する最大の価値は、依頼者への個別同意説明を不要化している点です。これは規程コンプライアンスの問題であると同時に、市場導入の現実的な成否を左右する問題でもあります。
弁護士がAIツールを導入する際の最大の心理的障壁は、「依頼者の情報をAIに入力して大丈夫なのか」という不安です。この不安に対して「技術的にPIIは外部に出ない」と明確に答えられることは、営業上の差別化にとどまらず、規程第4条の安全管理措置、第5条のライフサイクル管理、そして弁護士法第23条の守秘義務すべてに対する回答となっています。
弁護士による検証という大前提
AILEXのすべてのAI出力には「参考情報」であることが表示され、弁護士の精査・修正を経ることなく依頼者に提供されることは技術的に防止されています。これは日弁連の「弁護士も思考することを止めてはいけない」という姿勢と完全に一致しています。
AILEXのファクトチェック機能(Perplexity API)は、AI出力の検証を支援する独自機能です。調査した50社超のリーガルテックSaaSの中で、ファクトチェック機能を標準搭載しているのはAILEXのみという調査結果が得られています。世界で234件に達するAI誤用制裁事例(Mata v. Avianca事件の$5,000制裁金が代表例)を踏まえれば、ファクトチェック機能の標準搭載は、ハルシネーションリスクへの具体的な対策として高く評価できます。
まとめ——規制と技術の交差点に立って
日弁連情報セキュリティ規程は、弁護士業務のデジタル化に伴う情報管理の「あるべき姿」を示した重要な規範です。全7条のコンパクトな構成でありながら、PDCAサイクルに沿った体系的なセキュリティ管理を求めており、AI利用を含むあらゆるデジタル環境での情報取扱いに適用されます。
AILEXは、この規程の要件に対して高い水準で適合する設計を備えています。PII自動マスキング、二要素認証、マルチロール権限管理、包括的監査ログ、デュアルLLM構成という技術的基盤は、Security by Designの思想を体現しています。
同時に、ZDR契約の明示、データ越境移転の法的整理、インシデント対応体制の明文化、PIIマスキング精度の継続的検証、利用事務所向けコンプライアンス支援文書の整備という5つの追加対応領域が存在します。これらは、現時点でAILEXの法的リスクを顕在化させるものではありませんが、今後策定が予想される日弁連の正式な生成AIガイドラインへの先行対応として、また弁護士ユーザーの信頼獲得のために、計画的に整備していくべき事項です。
規制環境は2026年も大きく動いています。法務省のリーガルテック指針運用見直し、日弁連の生成AIガイドライン策定、AI推進法の運用開始——これらの動向を継続的にモニタリングしながら、技術と法制度の両面で最適な対応を追求していくことが、弁護士向けAI SaaSプラットフォームとしてのAILEXの使命です。
本記事は法的助言を構成するものではありません。具体的な法的判断については、弁護士にご相談ください。
AILEXについて詳しく知りたい方は、公式サイトをご覧いただくか、公式LINEからお問い合わせください。
AILEX合同会社 info@ailex.co.jp | https://ailex.co.jp

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