【世界初】なぜAILEXはIETFに技術仕様を提出したのか — リーガルテックAI分野で初のInternet-Draft、その背景と意義


はじめに:AIの「便利さ」から「証明可能性」へ

弁護士がAIを業務に活用する時代が到来しています。契約書のレビュー、判例検索、法的リスクの分析——AIは法律業務の多くの場面で活躍し始めました。

しかし、ひとつの根本的な問いが残されています。

「そのAIの判断は、本当に正しかったと証明できるのか?」

AIが出した回答を弁護士が精査し、クライアントに提供する。そのプロセス全体が、後から第三者によって検証可能であること。これは、法律業務におけるAI活用の信頼性を担保するために不可欠な要件です。

AILEXは2026年2月14日、この課題に対する技術的な回答として、IETF(Internet Engineering Task Force)にInternet-Draft「draft-ailex-vap-legal-ai-provenance-00」を提出しました。正式タイトルは「Verifiable AI Provenance (VAP) Framework and Legal AI Profile (LAP)」です。

そして、5つの独立した調査機関による網羅的な調査の結果、リーガルテック/司法AI分野に特化した技術仕様がIETF Internet-Draftとして提出された先行事例は確認されませんでした。

本記事では、この技術仕様がなぜ必要なのか、何を定義しているのか、そしてリーガルテック業界にとってどのような意味を持つのかを、詳しく解説します。


IETFとは何か

IETFはインターネットの基盤技術を標準化する国際的な組織です。私たちが日常的に使用しているHTTP、HTTPS、メール(SMTP)、DNS——これらすべてのプロトコルはIETFの標準化プロセスを経て策定されたものです。

IETFの標準化プロセスでは、まず「Internet-Draft(I-D)」と呼ばれる技術草案が提出されます。Internet-Draftはあくまで「草案」であり、IETFが承認した「標準」ではありません。しかし、世界中のエンジニアによるレビューと議論を経て、合意が得られたものは最終的にRFC(Request for Comments)として標準化されます。

重要な点として、IETFはこれまで主にネットワークプロトコル(通信の仕組み)に焦点を当ててきました。法律業務やリーガルテックという特定の産業ドメインに特化した技術仕様がIETFに提出されること自体が、インターネット技術の新たな方向性を示しています。


なぜ「法律AI特化」の技術仕様が必要なのか

法律業務の特殊性

法律業務には、他の産業にはない固有の要件があります。

まず、弁護士の守秘義務です。弁護士法第23条に基づき、弁護士はクライアントの情報を厳格に秘匿する義務を負っています。AIを業務に活用する場合でも、クライアント情報の保護は絶対条件です。

次に、判断の根拠の透明性です。弁護士がクライアントに法的助言を提供する際、その助言の根拠——どの法令を参照し、どの判例を検討し、どのような論理でその結論に至ったか——を明確にする必要があります。AIが介在する場合、AIの判断プロセス自体もこの透明性の対象に含まれます。

そして、事後検証可能性です。法的紛争が生じた場合、あるいは懲戒手続きにおいて、弁護士の業務プロセスが適切であったかどうかを事後的に検証できる必要があります。AIが生成した回答を弁護士がどのように精査し、どの部分を採用し、どの部分を修正したのか。このプロセス全体の記録と検証可能性が求められます。

既存の標準では不十分

AIの信頼性に関する国際標準は既に存在しています。ISO/IEC 42001はAIマネジメントシステムの枠組みを提供し、IEEE P7000シリーズはAIの倫理的設計を扱っています。

しかし、これらは「組織がAIを正しく管理しているか」という管理体制の標準であり、「AIが行った個々の判断を暗号学的に検証する」ためのプロトコル仕様ではありません。

また、法律文書の標準としてはOASISのLegalDocML(Akoma Ntoso)やLegalRuleMLが存在しますが、これらは法律文書のフォーマット標準であり、AIの判断証跡を検証する仕組みとは異なります。

つまり、「法律業務におけるAI判断の証跡を、技術的に検証可能にする」プロトコル仕様は、これまでどの標準化団体においても策定されていなかったのです。


AILEXが提出した技術仕様の概要

VAP(Verifiable AI Provenance)フレームワーク

VAP(検証可能なAIプロベナンス)フレームワークは、AIの判断から実行に至るまでのイベントを暗号学的なハッシュチェーンで連結し、第三者による事後検証を可能にする汎用的なアーキテクチャです。

このフレームワークは、IETFの既存のセキュリティ技術——SCITT(Supply Chain Integrity, Transparency, and Trust)による透明性サービス、RATS(Remote Attestation Procedures)によるリモート証明、COSE(CBOR Object Signing and Encryption)による暗号署名——を組み合わせて構築されています。新しい暗号プリミティブを発明するのではなく、実績のある既存技術を統合している点が特徴です。

LAP(Legal AI Profile)

LAP(法律AIプロファイル)は、VAPフレームワークの上に構築された、法律業務に特化したドメインプロファイルです。

LAPが定義する主な要素は以下のとおりです。

AI判断の記録: AIがどのような入力(法的質問、参照条文、関連判例)に基づき、どのような出力(法的分析、リスク評価、推奨事項)を生成したかの詳細な記録。

弁護士精査の証跡: 弁護士がAIの出力に対してどのような介在——承認、修正、棄却——を行ったかの暗号学的に検証可能な記録。

守秘義務との両立: 判断の証跡は開示しつつ、クライアントの機密情報は秘匿するための選択的開示メカニズム。

証拠能力の確保: 記録が改ざんされていないことを暗号学的に証明する仕組み。法的手続きにおいて証拠として採用されるための技術的基盤を提供します。


5機関独立調査の結果

AILEXは、本ドラフトの提出に先立ち、リーガルテック/司法AI分野に特化したIETF Internet-Draftが過去に存在したかどうかを検証するため、5つの独立した調査機関に調査を依頼しました。

調査範囲

各調査機関は、以下の範囲を網羅的に調査しました。

IETF Datatrackerに登録されている全ドラフト(AI関連99件を含む)を複数のキーワードで検索。SCITT、RATS、AIPREF、OAUTH、COSE、JOSE等の関連ワーキンググループの活動内容を確認。ISO/IEC、IEEE、OASIS、W3C、ETSI、CEN-CENELEC、NIST、ITU-T、UNESCOの9つの国際標準化団体を横断的に調査。Google Scholar、arXiv、ACM Digital Library等の学術論文データベースも検索対象としました。

調査結果

5機関すべての調査において、リーガルテック/司法AIに特化したIETF Internet-Draftの先行事例は確認されませんでした。

具体的な調査結果を紹介します。

IETF Datatrackerにおいて「Legal AI」をタイトルに含むドラフトは、本件ドラフトのみでした。AI関連ドラフト99件を全数確認した結果、リーガルテック/司法AIを主目的とするものは本件以外に存在しませんでした。

一方、AI全般の文書における法律関連の「例示的言及」は3件確認されました。draft-howe-sipcore-mcp-extension-00(2025年9月提出)は、AIエージェントのセキュリティ要件として”Attorney-client privilege”に触れていますが、法律AI特化の技術仕様ではありません。draft-condrey-rats-pop-01は、ユースケースのひとつとして”legal provenance”を例示していますが、汎用的な著者証明フレームワークです。

IETF以外の標準化団体においても、法律AI特化のAI証跡・プロベナンス技術標準は確認されませんでした。ISO/IEC 42001は汎用的なAI管理システム標準であり、OASISのLegalDocMLは法律文書のフォーマット標準です。ETSIのEN 304 223やTS 104 008はAI全般の監査・トレーサビリティ標準であり、いずれも法律AI特化ではありません。

5機関の平均確信度は、「リーガルテックAI特化のIETF Internet-Draft」としての初事例について90.6%でした。

「先行事例なし」と「存在しない」の違い

重要な点として、「5機関の調査範囲内で先行事例が確認されなかった」ことは、「先行事例が世界中に絶対に存在しない」ことを意味するものではありません。

各調査機関が指摘した限界事項として、IETF Datatrackerの全文検索の不完全性、非公開ドラフトや準備段階のドラフトは検索対象外であること、各国固有の標準化団体(JIS、GB/T、KS等)は調査範囲外であること等が挙げられています。

AILEXは、この点を誠実に開示した上で、調査範囲と調査日を明示して「初」の主張を行っています。


既存のAIプロベナンスドラフトとの違い

IETFにはAIの証跡管理に関する先行ドラフトが複数存在しています。AILEXのドラフトはこれらとどう異なるのでしょうか。

VAP Framework(draft-kamimura-vap-framework-00、2026年1月提出) は、AIの判断証跡を暗号学的に検証可能にする汎用的なフレームワークです。特定の産業ドメインに依存しない基盤アーキテクチャを定義しています。AILEXのドラフトは、このVAPフレームワークの上に法律AI特化のプロファイル(LAP)を構築したものです。

Reilly Sentinel Protocol(RSP、2025年9月提出) は、医療や防衛等の安全性が重要な分野向けに、データセットから推論出力までの整合性を保証するプロトコルです。ブロックチェーンを活用したタイムスタンプアンカリングが特徴ですが、法律ドメイン固有の要件(弁護士精査、守秘義務、法的証拠能力)は対象としていません。

TIBET Protocol(2026年1月提出) は、AI間・AI-人間インタラクションのプロベナンスチェーンを記録する汎用プロトコルです。

Proof of Process(PoP、2026年2月提出) は、ドキュメント作成プロセスにおける人間の関与を暗号学的に証明するフレームワークです。AILEXのLAPにおいて、弁護士の精査行為を証明するための下位要素として機能し得る技術です。

これらのドラフトはいずれも汎用フレームワークまたは他分野特化であり、法律業務という特定の産業ドメインに焦点を当てたプロファイルを定義するものは、AILEXのドラフトが唯一です。


2026年、民事裁判IT化の年に

2026年5月、日本では民事裁判のIT化(mints:民事裁判書類電子提出システム)が本格稼働します。裁判書類の電子提出が標準となり、法律業務のデジタルトランスフォーメーションが加速します。

この流れの中で、AIが法律業務にますます深く関与するようになることは確実です。そして、AIの判断プロセスの透明性と検証可能性に対する要請は、今後さらに強まるでしょう。

AILEXのIETF Internet-Draft提出は、こうした社会的要請に先駆けて、技術的な基盤を整備する取り組みです。


AILEXの目指す「検証可能なAIリーガルOS」

AILEXは、AIの「便利さ」ではなく、AIの「証明可能性」を提供することを目指しています。

すべてのAI生成は記録され、すべての判断は検証できる。

これがAILEXの理念であり、IETF Internet-Draft提出はその理念を国際的な技術標準のレベルで具現化する第一歩です。

AIの活用が進めば進むほど、「そのAIは信頼できるのか」という問いの重要性は増していきます。AILEXは、その問いに対して「はい、暗号学的に証明できます」と答えられるプラットフォームを構築しています。


まとめ

AILEXは2026年2月14日、リーガルテック/司法AI分野に特化した技術仕様をIETFにInternet-Draftとして提出しました。5つの独立した調査機関による網羅的な調査の結果、同分野に特化した先行のIETF Internet-Draftは確認されていません(2026年2月14日時点、調査範囲内)。

IETF Internet-Draftは標準化草案であり、IETFによる承認・推奨を意味するものではありません。今後、IETFコミュニティにおけるレビューと議論を通じて、仕様の改善と標準化に向けたプロセスを進めてまいります。

AILEXは引き続き、日本の法律業務におけるAI活用の信頼性向上に取り組んでまいります。


※本記事の内容は2026年2月14日時点の情報に基づいています。 ※IETF Internet-Draftは標準化草案であり、IETFが承認した標準ではありません。 ※「初」の主張は、5つの独立した調査機関による2026年2月14日時点の調査に基づきます。調査範囲はIETF Datatracker、主要国際標準化9団体、学術論文データベースです。 ※本記事は法律上の助言を構成するものではありません。

公開URL: https://datatracker.ietf.org/doc/draft-ailex-vap-legal-ai-provenance/

お問い合わせ: info@ailex.co.jp

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