検証可能AIの
標準化活動
AILEXは、法律AIの判断過程を暗号学的に検証可能にする技術仕様を策定し、インターネット技術の国際標準化団体であるIETFにInternet-Draftとして提出しました。「便利な司法AI」ではなく「検証可能な司法AI」の実現を目指しています。
なぜ「検証可能性」が必要なのか
AIの法律分野への活用が世界的に加速しています。契約書レビュー、判例検索、訴訟戦略の立案まで、AIは弁護士の業務を大きく変えつつあります。しかし、その一方で根本的な問題が未解決のままです。「AIがどのような根拠で、その回答を生成したのか」を、第三者が技術的に検証する手段がありません。
弁護士がAIの出力を精査し修正を加えたとしても、そのプロセスの記録は各システムの独自形式に依存しており、裁判所や相手方代理人、依頼者が客観的に確認する術はありません。AIの「便利さ」だけが先行し、「信頼の技術的根拠」が欠如している ── これが現在の司法AIが抱える構造的課題です。
すべての生成は記録され、すべての判断は検証できる。
── AILEX が目指す「検証可能なAIリーガルOS」
VAP フレームワーク と LAP(Legal AI Profile)
今回IETFに提出したInternet-Draftは、2つの技術仕様で構成されています。AIの判断証跡を分野横断で扱う上位フレームワーク「VAP(Verifiable AI Provenance)」と、法律AI固有の要件を定義するドメインプロファイル「LAP(Legal AI Profile)」です。
┌──────────────────────────────────────────────────────┐ │ VAP Framework(Verifiable AI Provenance) │ │ 分野横断の上位フレームワーク │ │ │ │ ┌─────────┐ ┌─────────┐ ┌─────────┐ ┌─────────┐ │ │ │Integrity│ │Provenan.│ │Account. │ │Traceab. │ │ │ │ Layer │ │ Layer │ │ Layer │ │ Layer │ │ │ └─────────┘ └─────────┘ └─────────┘ └─────────┘ │ │ Hash Chain / Digital Sig / UUIDv7 / RFC 3161 TSA │ ├──────────────────────────────────────────────────────┤ │ Domain Profiles(ドメイン別プロファイル) │ │ │ │ ┌─────────────────────────────────────────────────┐ │ │ │ ★ LAP(Legal AI Profile)← 本ドラフト │ │ │ │ 司法AI特化:弁護士精査証跡 / 守秘義務対応 │ │ │ └─────────────────────────────────────────────────┘ │ │ ┌───────────┐ ┌───────────┐ ┌───────────┐ │ │ │VCP 金融 │ │CAP コンテ.│ │DVP 自動車 │ ... │ │ └───────────┘ └───────────┘ └───────────┘ │ └──────────────────────────────────────────────────────┘
AI生成過程の暗号学的記録
AIモデルへの入力(PIIマスキング済み)、生成された出力、使用されたモデルのバージョンと設定を、ハッシュチェーンと電子署名で改ざん不能な形で記録します。
弁護士精査の証明可能性
弁護士がAI出力のどの部分を採用・修正・棄却したかを、暗号技術で検証可能な証跡として保持します。AI時代における弁護士の付加価値を技術的に可視化します。
守秘義務との両立
プライバシー保護検証(ハッシュベース)により、文書の内容を開示することなく「証跡が存在し、改ざんされていないこと」のみを第三者が検証できる設計です。
独立5機関による先行事例調査
本ドラフトの提出にあたり、リーガルテック/司法AIを主目的としたIETF Internet-Draftの先行事例の有無を確認するため、5つの独立した調査機関による調査を実施しました(2026年2月14日時点)。
| 調査対象 | 調査範囲 | 法律AI特化の先行事例 |
|---|---|---|
| IETF Internet-Draft | Datatracker全件検索 / API網羅検索 | 確認されず(5/5一致) |
| IETF WG活動 | SCITT / RATS / AIPREF 等 8WG+IRTF 39RG | 確認されず(5/5一致) |
| ISO / IEC / IEEE | ISO/IEC 42001 / IEEE P7000シリーズ等 | 確認されず(5/5一致) |
| OASIS / W3C | LegalDocML / LegalRuleML / PROV等 | 文書標準のみ(AI証跡なし) |
| ETSI / NIST | CABCA / AI RMF / Traceability TR等 | 確認されず(5/5一致) |
| 学術論文 | arXiv / Google Scholar / ACM DL / IEEE Xplore | 直接言及なし |
標準化活動の経緯と今後
標準化が実現した先に描く未来
「便利だから使う」から「検証できるから信頼する」へ
本ドラフトがRFCとして採択された場合、司法AIの信頼性に関する国際的な技術基盤が初めて確立されることになります。これは単なる技術文書の承認にとどまらず、「AIが法律業務に関与する際、その判断過程を誰もが検証できる」という原則が、国境を越えた共通言語として定着することを意味します。
弁護士がAIを活用して作成した法的文書について、「いつ、どのAIモデルが、どのような入力に基づいて生成し、弁護士がどの箇所をどう精査・修正したか」が暗号学的に検証可能な証跡として残ります。裁判所や相手方代理人、依頼者が、AI関与の透明性を客観的に確認できる時代へ。AIの利用そのものではなく、AIの利用プロセスの品質が評価される時代への転換です。
国際的な法務連携において、異なる法域の弁護士が同一のプロトコルに基づいてAI判断証跡を交換・検証できるようになれば、AI活用に対する制度間の摩擦は大幅に軽減されます。そして、標準準拠の証跡基盤は弁護士の専門的判断の価値をむしろ高めます。AIが下書きを生成する時代において、弁護士の真の付加価値は「何を採用し、何を修正し、何を棄却したか」という精査プロセスにあります。LAPはその精査を暗号学的に記録・証明することで、弁護士の知的作業を可視化し、正当に評価される仕組みを提供します。
AILEXは、日本の弁護士制度が守ってきた守秘義務の厳格さと依頼者保護の伝統をAI時代の信頼設計の礎とし、技術標準という形でその思想を世界に発信してまいります。
関連リソース
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